下請けをやっていると、得意先に仕事のできない担当者がいて、大変困ることがある。初夏の頃にやっていた仕事で、とてつもなく変な担当者にあたったために、周りの人たちが大変なことになりそうなことがあった。外注先がダメな仕事をあげてきたなら、発注者の責任だとして反省すればいいが、得意先がダメなのはどうにもならない。金額が安いなら、次から断れるが、そうでもないときは余計に困る。
さて、この業界で仕事ぶりが尊敬に値する人を二人知っている。一人は雑誌編集者のH女史。そして、もう一人は元・書籍編集者のT氏。いずれも粘り強さという点では、他の人たちを寄せ付けない(当然ながら、二人とも重度のワーカホリックだった)。私が偉そうに雑誌や書籍のことを話すことができるのは、二人と仕事をした年月のおかげだ。
それで、今日思い出したのはT氏の仕事ぶりだ。T氏は短期間で一定レベルの書籍を大量に刊行するチームを率いていた人で、「どうやったら、この量の仕事をうまくできるか」を常に考えざるを得ない立場に置かれていた人だ。彼の指示は具体的で、要求レベルは高く、容赦がなかった。
私が「お守り」をしている(と敢えて言おう)取引先の人たちの欠点は、まず指示が曖昧なこと。そして、「どうやったら、うまくいくのか」を考えず、思いついた順に仕事を言いつけてくること。同じ仕事をするのでも、順序よく的確なタイミングで指示を出すのと、行き当たりばったりで思いついた順に言うのとでは、まったく結果が異なってくる。後者は端的に仕事ができない人のやることである。
仕事がうまくいかなかったとき、発注者は受注者を「ダメな下請けだ」と切って捨てることができる。だからこそ、「うまくいかせるために、何か方法がなかったのか」を常に考える必要がある。でなければ、発注者の仕事のスキルは永遠に上がらない。うまくいかなかったときに受注者にすべての責任を負わせるのは、頭の悪い人がやることである。受注者がサボった結果、うまくいかなかったとしたら、その下請けを使った自分をまず責めるべきである。そして、その次にトラブルを予防する策が十分だったかを点検すべきだ。さらに、トラブルが表面化した後、的確なリカバリーの手段を講じたかどうかもよく考えてみる必要がある。ここまでくれば、だいたいのケースで、発注者側が「自分にはまったく責任がない」とは言えないはずである。
自分の顔を鏡に映すのが一番難しく、そして気分の悪いものだ。しかし、それを忘れない者が上達する。
そういえば、H女史もT氏も私より5歳以上年下だな。仕事のできる年下の人に出会う機会はもうない。
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