ここ4年ほど、歯科医師・吉野敏明氏が提唱する「四毒抜き」を実践している。小麦(グルテン)、植物油、乳製品、甘いもの──この4つを食事から排除する方法だ。YouTubeで広まり、書籍『四毒抜きのすすめ』(徳間書店、2025年6月)はAmazonの家庭医学カテゴリで1位になった。信者も多いが、メンタリストDaiGoあたりからは「科学的根拠が薄い」と叩かれてもいる。
で、私はどうなったか。長年100を超えていたALT/ASTが正常値に戻った。血液検査の数字は嘘をつかない。さらに言うと、HDL140、LDL88で、コレステロールのバランスは最高。動脈硬化になりにくい状態らしい。
ただし「四毒抜き万歳!」と叫ぶつもりはない。AIに突っ込んでもらいながら、自分の食事内容を冷静に検証してみた結果を書く。
四毒それぞれのエビデンスを整理する
「四毒」と呼ばれる4つの食品群について、まともな科学的エビデンスがどこまであるのかを整理しておく。
砂糖(甘いもの)の回避: これは最もエビデンスが強い。過剰な糖摂取が肥満・糖尿病・心疾患のリスクを上げることは多数のRCT(ランダム化比較試験)と疫学研究で確認されている。WHOは遊離糖を1日25g未満に抑えることを推奨している。四毒のなかで「やめて損はない」と最も確実に言えるのがこれだ。
小麦(グルテン)の回避: セリアック病やグルテン不耐症の人には必須。しかし健康な一般人にとって、グルテンフリーが健康改善に寄与するという強い証拠はない。Harvard Healthも、全粒穀物は心疾患や糖尿病リスクの低減に寄与するとしている。ただし現実問題として、小麦製品をやめると菓子パン・パスタ・ケーキといった高カロリー・高GI食品が一気に消えるため、結果的に大幅なカロリーカットになる。「小麦が毒」なのではなく「小麦を含む加工食品群がまとめて消える」ことの効果が大きい。
植物油(種子油)の回避: AHA(米国心臓協会)は非熱帯植物油を心臓に有益と推奨している。リノール酸(オメガ6)が炎症を増加させるという主張は、15件のRCTの系統的レビューでは支持されていない。ただし揚げ物や加工食品経由での過剰摂取は別の話で、「加工食品を減らす」こと自体は有益だ。上質なエクストラバージンオリーブオイルに至っては、NAFLD(非アルコール性脂肪肝)に保護的に働くデータすらある(PREDIMED研究など)。
乳製品の回避: 乳糖不耐症や特定のアレルギーがなければ、完全に避ける医学的必要性は乏しい。低脂肪乳はDietary Guidelines 2020-2025でも栄養源として推奨されており、発酵乳製品(ヨーグルト、チーズ)は腸内環境に良い影響があるとする観察研究が多い。
まとめると、「四毒抜き」全体を検証した大規模RCTは存在しない。4つの「毒」を一括りにする理論自体は科学的コンセンサスを得ていない。ただし、砂糖と加工食品を大幅に減らすという部分は、地中海食やパレオダイエットと重なるところが多く、そちらにはエビデンスがある。
自分の場合──なぜALT/ASTが正常化したのか
ここからは完全にn=1(個人の体験談)の話。
四毒抜きを始める前の食事はこうだった。果糖ブドウ糖液糖入りの飲料を時々飲み、菓子は切らさないようにしていた。デュラムセモリナの全粒粉パスタを常食し、上質なオリーブオイルをたっぷり使っていた。チーズは週1回程度(ハードチーズ、カマンベール、カッテージなど)。牛乳は飲まない。揚げ物は、量は多くないが、週に数回は惣菜や冷凍食品で摂っていた。炒め物は時々。惣菜か自炊か。
これを全部やめた。飲料は無糖、菓子はゼロ、パスタはグルテンフリー(トウモロコシと米)に切り替え、オリーブオイルは完全にやめ、チーズもやめた。揚げ物、炒め物も完全にやめた。
AIに評価してもらったところ、こう指摘された。「四毒抜き」という名前で呼んでいるが、実質的にやったことは以下の3つだ、と。
- 果糖摂取のほぼ完全ゼロ化
- 加工食品・揚げ物のほぼ完全排除
- オメガ6リノール酸の大幅カット
これらは現在、NAFLD(非アルコール性脂肪肝)の治療ガイドライン(EASL・AASLDガイドライン2023-2025)で第一選択に近い扱いの介入そのものだ。つまり「四毒抜きという理論のエビデンスは弱いが、私が実際にやった食事変更は、脂肪肝治療で最もエビデンスのある食事パターンとほぼ重なっていた」ということになる。
ALT/ASTが100超から正常値に戻ったのは、偶然でも奇跡でもなく、医学的に最もあり得る経路で起きた変化だった。
ただし、オリーブオイルの完全排除は「やりすぎ」との指摘もあった。上質なEVオリーブオイルはNAFLDに保護的に働くデータが多い。チーズの週1回程度も、発酵乳製品として腸内環境には良い影響がある。ここは少量なら戻してもいいかもしれない。
現在の食事内容──主食編
現在の主食ラインナップはこうなっている。
十割蕎麦(2日に1〜2食): ルチン、低GI、食物繊維。蕎麦湯まで飲めばほぼ完璧。個人的な最強主食。
発芽玄米+大麦+雑穀のご飯(1日1食):γ-オリザノール、マグネシウム、大麦のβ-グルカン。栄養面で最も隙がない。
米ビーフン(2日に1〜2食): GI値53〜59、脂質ゼロ、グルテン完全ゼロ。茹でて味噌汁に入れたり、キーマカレーをかけたりしている。
グルテンフリーパスタ(米+トウモロコシ、2日に1〜2食): GI値はやや高め(60〜70)だが、小麦パスタよりはマシ。量を80g以内に抑えるのがコツ。
ライ麦100%パン+バター(薄いものを1日2枚程度): ここは「四毒抜き警察」に怒られるポイント。ライ麦にはグルテンが含まれるし、バターは乳製品だ。ただし量が薄2枚なら実害はほぼ誤差レベル。GIも50前後と低い。
現在の食事内容──副食編
具沢山味噌汁または豚汁(週8食、ほぼ毎日):発酵+食物繊維+動物性タンパクの黄金トリオ。これだけで腸肝軸の改善効果が期待できる。
自作キーマカレー(週6食):豚ひき肉、小麦粉なし・植物油脂なしの粉末カレー粉、ニンニク、生姜、トマト缶で作る。クルクミン、ジンゲロール、リコピンの抗炎症スパイスが全部入り。油も小麦粉も使っていないので、これはもはやカレーの形をした薬膳だ。
青魚の塩焼き(週2〜3食程度):EPA/DHAが肝脂肪を直接減らすという臨床試験は多数ある。塩焼きなら油もゼロ。
糠漬け(きゅうり、大根、にんじん、長芋、パプリカ、ゴーヤなど):乳酸菌と食物繊維の爆弾。自分で漬けている。
納豆(週3食):ナットウキナーゼ、ビタミンK2、食物繊維。週5に増やしてもいいくらいだが、毎日食べる必要は感じていない。
レトルト(パスタソース週2食、カレー週1〜2食):植物油脂や人工甘味料、砂糖の少ないものを選んでいる。完全自炊は無理なので、ここは現実的な落としどころ。
結論──「四毒抜き」という看板より、中身を見ろ
正直に言えば、「四毒抜き」という看板はキャッチーだが、科学的にはツッコミどころが多い。提唱者の吉野敏明氏は歯科医師であって内科医や栄養学の研究者ではないし、RCTに基づくエビデンスは存在しない。「毒」という言葉の強さが反発を呼ぶのも無理はない。
しかし、結果的にやっていることを分解してみると、砂糖と加工食品の排除、和食回帰、発酵食品の多用──これらは現代の栄養学や肝臓内科の知見とかなり重なる。理論の看板が怪しいからといって、中身まで否定するのはもったいない。
私自身のALT/AST正常化は、n=1の体験談に過ぎない。しかし、現在の脂肪肝治療で最もエビデンスのある食事パターンとほぼ一致する食事変更の結果として、医学的に説明可能な変化だ。
一番フェアな言い方はこうだろう。「四毒抜きという理論そのもののエビデンスは弱い。だが、私が実践した内容は、NAFLD治療で最も効果が確認されている食事パターン(超低果糖+超低加工食品+和食回帰)とほぼ重なるため、ALT/ASTが正常化したのは不思議ではない」。
過大評価も過小評価もしない。看板より中身。理論より結果。ただし、結果を理論の証拠にすり替えない。そのバランスが大事だと思っている。
四毒抜き信者と不勉強な批判者にも一言
一時期よりは減った気がするが、吉野敏明氏には「この先生の言うことはなんでも正しい。全て従うべきだ」と考える"信者"がいる。しかし、私はその考え方には同意しない。
なぜなら、四毒抜きで全ての病気を防げるとは言い切れないからだ。持病が極端に良くなる人はいる。自己免疫性疾患などは改善される可能性が高い。それでもなお、四毒+食品添加物など(五悪に含まれる。五悪とは①食品添加物、②農薬、③化学肥料、④除草剤、⑤遺伝子組み換え)を排除すれば、人間は不老不死になるのかと問われれば、ならないと答えるべきだろう。
また、体調が改善されるとは限らない。悪化する人もいるかもしれない。100%の改善を期待するのは間違いである。さらに言えば、平均寿命を超えたような超高齢者が特に体調に問題がないのに、わざわざ取り入れるべきものでもない。
もし四毒抜きを本気で批判するなら、四毒抜きを行なって体調が悪化した人を集めて研究するしかない。それ以外の批判は、単なる"お気持ち表明"でしかない。
これらの話を前提に四毒抜きを考えなければ、和田秀樹氏のような過ちを犯してしまう。批判するなら、ちゃんと四毒抜きを勉強してから批判しなくては的外れも甚だしいことしか言えないのは、ちょっと考えればわかるだろうに。
「小麦粉、植物性油、乳製品、砂糖の「四毒」を抜くのは危険…和田秀樹「日本人が知らない"毒"の意外な利点」(プレジデントオンライン)








